経理・総務の引き継ぎ
経理の引き継ぎがないまま前任者が辞めた。立て直しの順番
経理を担当していた方が、引き継ぎをしないまま退職した。急な事情で、引き継ぎの時間がとれなかった。手元に残っているのは、通帳と会計ソフトと、前任の方のメールだけ。この記事は、そんな状態から経理を立て直すことになった社長や、後任の方に向けて書きました。
引き継ぎがなかった理由は、さまざまです。前任の方を責めるより、まず業務を止めないことを優先します。
何から手をつけるかは、順番で決まります。最初にやるのは、業務の全体を理解することではありません。期限があって止められないものを、先に押さえることです。この記事では、次の順番で進め方を紹介します。
- 止めてはいけない支払・給与・納付の期限を押さえる
- 通帳・会計ソフト・メールから、業務を起こす
- 顧問の税理士の方や取引先に確かめる
- 前任の方に連絡するなら、範囲を決めて
- 業務一覧と年間の予定をつくり直す
- 起こした内容を、次に備えて残す
1. 最初の1週間で、止めてはいけない期限を押さえる
最初の1週間は、支払、給与、税金と社会保険料の納付、請求の4つだけに絞ります。
支払の期日
- 通帳やネットバンキングの振込の記録を数か月分さかのぼり、毎月決まって振り込んでいる先と、その日付を拾う
- 届いている請求書を集める(郵便、メール、取引先のWebサービス)
- 振込の承認ができる方を確かめる。ネットバンキングにログインできない場合は、会社として銀行に手続きを相談する
給与の支給日
- 給与の締め日と支給日、前月の給与明細と振込の記録を確かめる
- 給与計算を誰が行っていたか(給与計算ソフト、社労士事務所など)を確かめる
- 給与から差し引く住民税と社会保険料の金額を確かめる
住民税の金額は、区市町村から毎年5月31日までに届く「特別徴収税額決定通知書」に書かれています。6月の給与から、この金額で天引きします(東京都主税局)。健康保険・厚生年金保険の保険料は、毎月20日頃に日本年金機構から届く「保険料納入告知書」(口座振替の場合は「保険料納入告知額・領収済額通知書」)で確かめられます(日本年金機構)。給与計算が止まりそうなときは、顧問の社労士の方に早めに相談します。
税金と社会保険料の納付期限
会社が納める税金と社会保険料には、決まった期限があります。前任の方がどれを、どの方法で納めていたかを、過去の記録から確かめます。
| 納めるもの | 期限 | 手がかりになる資料 |
|---|---|---|
| 源泉所得税(給与などから差し引いた所得税) | 支払った月の翌月10日。納期の特例の承認を受けていれば、1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日(国税庁) | 過去の納付の記録、税務署から届いた納付書 |
| 住民税(特別徴収) | 特別徴収した月の翌月10日。常時10人未満の事業主で納期の特例を受けていれば、6〜11月分は12月10日、12〜5月分は6月10日(東京都主税局) | 区市町村から届いた通知書と納付書 |
| 健康保険・厚生年金保険の保険料 | 納付対象月の翌月末日(日本年金機構) | 保険料納入告知書、口座振替の記録 |
| 法人税・消費税 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内。申告期限の延長の特例を受けている会社もある(国税庁) | 前期の申告書の控え |
| 労働保険料 | 年度更新の手続きは毎年6月1日〜7月10日(厚生労働省) | 前年度の申告書の控え |
源泉所得税を毎月納めているのか、年2回なのかは、過去の納付の記録を見るとわかります。国税の納期限が土曜・日曜・祝日にあたるときは、その翌日が期限です(国税庁)。
期限を過ぎていたことに気づいた場合も、あわてずに確かめます。国税は、期限までに納めないと延滞税がかかります(国税庁 No.9205)。社会保険料は、期限までに納めていないと、年金事務所から督促状が届きます(日本年金機構)。気づいた時点で、顧問の税理士の方や年金事務所に相談してください。
請求と入金
月末に出すはずの請求書が止まると、入金も止まります。過去の請求書と入金の記録から、毎月の請求先と締め日を拾い、今月分を出しそびれないようにします。
2. 通帳・会計ソフト・メールから、業務を起こす
期限を押さえたら、過去の記録から業務を起こします。前任の方の説明がなくても、お金の動きと書類は残っています。
| 見るもの | わかること |
|---|---|
| 通帳・ネットバンキングの明細(1年分) | 毎月の支払先と金額、入金の取引先、税金や社会保険料の引き落とし |
| 会計ソフトの仕訳(1年分) | 毎月くり返している仕訳、勘定科目の使い方、月次を締めていた時期 |
| 送信済みのメール | 請求書の送り方、税理士事務所への資料の送り方、取引先とのやり取り |
| カレンダー・タスク管理 | 毎月の定例、期限の書き込み |
| 共有フォルダ・会社のパソコン | 請求書のひな形、Excelの管理表、前年の申告書や届出の控え |
| 届いた郵便物 | 納付書、役所からの通知、請求書 |
進めるときのコツは、次の3つです。
- 1年分を月ごとに並べる 毎月ある業務と、年に一度だけの業務が見えてきます
- わからない取引は推測しない 「わからないことリスト」に入れて、あとで確かめます
- 会社のメールやパソコンは、決まった方が確かめる 社内のルールに沿って、社長など決まった方が見ます
会計ソフトやネットバンキングの管理者が前任の方だけだった場合は、ログインできないことがあります。手続きはサービスや銀行ごとに異なるので、会社として提供元や銀行に相談します。
3. 顧問の税理士の方や取引先に確かめる
過去の記録だけではわからないことは、社外の方に確かめます。
| 相手 | 確かめられること |
|---|---|
| 顧問の税理士の方 | 毎月受け取っていた資料と時期、決算と申告の予定、中間申告の有無、源泉所得税の納期の特例の有無、前期の申告書の控え |
| 顧問の社労士の方 | 給与計算や社会保険の手続きの分担、次に来る期限 |
| 銀行 | ネットバンキングの利用者と権限の変え方、口座振替の一覧 |
| 主な取引先 | 請求の締め日と送り方、支払の条件、未払いや未入金がないか |
顧問の税理士の方も、日々の処理の細かいところまでは把握していないことがあります。記帳を頼んでいない場合は、とくにそうです。聞く前に「わからないことリスト」を整理しておくと、短い時間で確かめられます。
取引先には、経理の窓口が変わったことを伝えます。あわせて、請求書の送り先が前任の方の個人のメールアドレスになっていないかも確かめます。
4. 前任の方に連絡するなら、範囲を決めて
前任の方に聞けば早いこともあります。ただ、すでに退職された方にとって、協力はご厚意です。
- 連絡するかどうかは、前任の方との関係や、退職の事情をふまえて決める
- 連絡する場合は、「わからないことリスト」から聞くことを絞り、まとめて一度に聞く
- 回数と期間を決め、無理にお願いしない
- 答えていただいた内容は、すぐに手順書や判断表に書き込む
連絡が取れない場合や、お願いしないと決めた場合は、ここまでの手順で進めます。記録と社外の方への確認で、多くのことは起こせます。
5. 業務一覧と年間の予定をつくり直す
起こした業務は、一覧にまとめます。項目は、業務名、頻度と期日、使うツール、関係者、手順の置き場所です。
| 業務名 | 頻度・期日(例) | 使うツール | 関係者 | 手順の置き場所 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書の発行 | 毎月末締め、翌月5日までに送付 | 会計ソフト、請求管理表 | 各取引先の経理窓口 | 共有フォルダ「経理/請求」 |
| 支払の準備 | 毎月25日払い | ネットバンキング | 社長(承認) | 共有フォルダ「経理/支払」 |
| 源泉所得税の納付 | 翌月10日まで | ネットバンキング、納付書 | 顧問の税理士の方 | 共有フォルダ「経理/税金」 |
月ごとの業務とは別に、年に一度の業務を年間の予定にします。主なものは次のとおりです(会社によって異なります)。
| 時期 | 年に一度の業務 |
|---|---|
| 1月 | 法定調書と合計表の提出(1月31日、国税庁)、給与支払報告書の提出(1月31日、東京都主税局)、償却資産の申告(1月31日、東京都主税局)、納期の特例を受けている場合の源泉所得税の納付(1月20日) |
| 5〜6月 | 住民税の新しい税額の通知(5月31日まで)と、6月の給与からの反映 |
| 6〜7月 | 労働保険の年度更新(6月1日〜7月10日)、社会保険の算定基礎届(7月10日、日本年金機構)、納期の特例を受けている場合の源泉所得税の納付(7月10日) |
| 年末 | 年末調整。その年の最後の給与を支払うときに行うため、通常は12月(国税庁「年末調整のしかた」) |
| 決算月の翌月〜2か月後 | 決算の準備、法人税・消費税の申告と納付 |
このほかにも、保険や契約の更新、棚卸しなど、会社ごとの年に一度の業務があります。前年の同じ月のメールや仕訳を見ると、見つかりやすくなります。申告や社会保険・労働保険の書類を、顧問の税理士・社労士の方がどこまで担当しているかも、表に書き込んでおきます。
6. 起こした内容を、次に備えて残す
立て直しで集めた情報は、次に担当の方が替わるときにも使えます。今回のようなことを、くり返さないための準備です。
- 手順は録画で残す 立て直した業務を、画面を操作しながら録画し、業務ごとに3〜5分に区切ります(引き継ぎマニュアルの作り方)
- 判断の基準は判断表に書く 「こういうときはこうする」を、業務一覧とは別にまとめます
- 管理者の権限は2人以上で持つ 会計ソフトとネットバンキングの管理者を、担当の方と社長などで持ちます
- 次の退職は、在籍中に引き継ぐ 進め方は一人経理が辞めると決まったらで紹介しています
- 定型の作業は仕組み化する 請求書の作成や入金の消込など、手順が決まっている作業は、今のツールの中で自動化できないかを考えます(属人化した業務は、退職をきっかけに解消する)
引継ぎ代行プラスでできること
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