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経理・総務の引き継ぎ

一人経理が辞めると決まったら。会社が退職日までにやること

経理を一人で担当していた方から、退職の申し出がありました。そのとき社長が最初に困るのは、その方が毎月なにをしているのか、全体が見えないことです。

支払、請求、給与の振込、税金の納付は、どれも止められない業務です。一方で、退職の申し出から退職日までの期間は長くありません。有給休暇の消化があれば、ご本人と一緒に作業できる日はさらに減ります。

この記事では、申し出から退職日まで5週間ある場合を例に、会社が週ごとに進めることをまとめました。集めておく情報のチェックリスト、顧問税理士・銀行・取引先への連絡、判断の基準の残し方まで、そのまま使える形にしています。顧問先から経理担当の方の退職について相談を受けた税理士の方にも、共有していただける内容です。

一人経理が抜けると止まりやすい業務

一人経理の会社では、お金の出入りに関わる業務が、その方に集まっています。まず、次のうちどれを担当しているかを確かめます。

業務 頻度 止まると起きること
支払(仕入先・外注先への振込) 毎月の支払日 支払が遅れ、取引先に迷惑がかかる
請求書の発行 毎月の締め日 請求が遅れ、入金も遅れる
入金の確認と消込 毎月 未入金に気づけない
給与の振込 毎月の支給日 従業員の方への支払が遅れる
税金・社会保険料の納付 毎月、または年2回 期限を過ぎると、国税では延滞税がかかる
経費精算 毎月 立て替えた方への支払が遅れる
月次の締め 毎月 試算表が出ず、会社の数字が見えなくなる
年に一度の業務 年1回 年末調整、法定調書、償却資産の申告、決算の準備が抜ける

税金と社会保険料には、決まった納付期限があります。給与から差し引いた所得税(源泉所得税)は、原則として給与を支払った月の翌月10日までに納めます(国税庁 No.2505)。健康保険・厚生年金保険の保険料は、納付対象月の翌月末日が期限です(日本年金機構)。国税は、期限までに納めないと延滞税がかかります(国税庁 No.9205)。退職日の前後にどの期限が来るかを、最初に確かめておきます。

申し出から退職日までの段取り(5週間の例)

最初に、ご本人と一緒に作業できる日を数えます。有給休暇を消化してから退職する場合は、最終出社日までが実際に使える期間です。週ごとにやることは、次のとおりです。

時期 主にやること 社内で決めること
1週目 業務を書き出す。退職日の前後に来る支払日・給与の支給日・納付期限を並べる 後任をどうするか(採用、社内の異動、外に任せる)
2週目 口座・会計ソフト・パスワードの状況を確かめる 管理者の権限を誰が持つか
3週目 毎月の流れを見せてもらい、録画する。判断の基準を聞く 判断を誰が引き受けるか
4週目 年に一度の業務を拾う。社外への連絡を始める 顧問税理士との資料のやり取りを誰がするか
5週目 権限を移す。退職後の質問の窓口を決める 退職後に、どこまでご本人に聞くか

1週目:業務を書き出し、近い期限を押さえる

最初の週は、業務の一覧をつくります。業務名、頻度と期日、使うツール、関係者、手順の置き場所を、1行ずつ書いていきます。

ご本人の記憶だけに頼ると、抜けが出ます。次の資料と照らし合わせながら書き出すと、忘れていた業務が見つかります。

  • 通帳やネットバンキングの明細(毎月の支払先、税金や社会保険料の引き落とし)
  • 会計ソフトの仕訳(毎月くり返している仕訳)
  • カレンダーの予定と、送信済みのメール

一覧ができたら、退職日の前後に来る支払日、給与の支給日、納付期限をカレンダーに書き込みます。後任をどうするか(採用する、社内で異動する、外に任せる)も、この週に考え始めます。

2週目:口座・会計ソフト・パスワードの状況を確かめる

一人経理の会社で、退職後にいちばん困るのは「ログインできない」「振込の承認ができない」という状態です。2週目は、口座とシステムの権限を確かめます。扱い方の決まりは次のとおりです。

  • 退職する方のIDとパスワードを、退職後にほかの方が使い続ける形にしない。会社として利用者を追加し、退職する方の利用者は退職日に止める
  • 管理者(利用者を追加・停止できる権限)は、社長など会社に残る方が持つ
  • ネットバンキングの振込の承認が、退職する方しかできない状態になっていないか確かめる。承認者の変更は、各銀行の手続きに沿って行う
  • ワンタイムパスワードのアプリや電子証明書が、退職する方の個人のスマートフォンやパソコンに入っていないか確かめる
  • パスワードはメールやチャットで送ってもらわず、会社で決めた方法で受け取る
  • 取引先からの請求書が、退職する方個人のメールアドレスに届いていないか確かめる。届いている場合は、共有のアドレスに切り替えてもらう

3週目:毎月の流れを見せてもらい、判断の基準を聞く

3週目は、請求書の発行、入金の消込、支払の準備、給与の振込、月次の締めを、実際の画面で操作しながら説明していただきます。その様子を録画しておくと、手順書を書く時間がなくても、操作の順番が残ります。録画は業務ごとに3〜5分に区切ると、あとから探しやすくなります。残し方は引き継ぎマニュアルの作り方で紹介しています。

あわせて、「こういうときはどうしていたか」という判断の基準を聞きます。聞き方は、このあとの「判断表」の章で紹介します。

4週目:年に一度の業務を拾い、社外に連絡する

年末調整や決算の準備など、年に一度の業務は、ふだんの業務一覧から漏れがちです。前年の同じ時期の資料(控え)がどこにあるかを聞いておきます。あわせて、顧問税理士、銀行、取引先への連絡を始めます。

5週目:権限を移し、退職後の窓口を決める

最後の週は、利用者の追加と停止、管理者の変更を終えます。共有フォルダの資料の置き場所も、ご本人と一緒に確かめます。

退職後に質問してよいかは、ご本人と相談して決めます。お願いする場合も、期間と連絡の方法を決め、無理のない範囲にとどめます。

一人経理の会社では、社員の方の退職手続きも、経理の方が行っていることがあります。ご本人の退職に関わる次の手続きを、誰が行うかも決めておきます。社会保険の手続きを顧問の社労士の方に頼んでいる場合は、早めに退職日を伝えます。

手続き 期限
健康保険・厚生年金保険の資格喪失届 事実発生から5日以内(日本年金機構)
雇用保険の資格喪失届 被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内(厚生労働省)
給与所得の源泉徴収票の交付 退職の日以後1か月以内(国税庁 No.7411)
住民税(特別徴収)の異動届 事由が発生した日の翌月10日まで。提出先は、ご本人がお住まいの区市町村(東京都主税局)

集めておく情報のチェックリスト

2週目から4週目にかけて、次の情報を集めます。「集めるもの」がそろっていても、「確かめること」が抜けていると、退職後に業務が止まります。

分類 集めるもの 確かめること
口座・ネットバンキング 口座の一覧、利用者と権限、振込の承認の流れ 退職する方の利用者を止めても、振込の承認ができるか
会計ソフト 契約者と管理者、利用者の一覧、連携している口座やカード 管理者が退職する方だけになっていないか
請求 請求先の一覧、請求書のつくり方と送り方 取引先ごとの締め日や、書式の決まり
支払 支払先の一覧、支払日、振込データのつくり方 毎月決まった支払と、その都度の支払の見分け方
入金の消込 入金の確かめ方、消込の手順 振込手数料が差し引かれたときや、まとめて入金されたときの扱い
経費精算 精算のルール、締め日、承認の流れ 規程にない支出の扱い
給与 締め日と支給日、振込の方法、給与計算の担当 住民税や社会保険料の控除額が変わる時期
税金・社会保険料 納付の方法(納付書、口座振替など)、過去の納付の記録 源泉所得税の納期の特例を受けているか
月次の締め 締めの手順、税理士の方に渡す資料と期日 試算表を誰が確かめているか
年に一度の業務 前年の資料(控え)の置き場所 税理士・社労士の方とどう分担しているか
書類の保管 請求書・領収書・契約書の保管場所(紙と電子) 紙の書類を誰が受け取り、どこに置くか
社外の連絡先 顧問税理士、社労士、銀行の担当、取引先の経理窓口 退職する方の名前で登録している連絡先がないか

源泉所得税の納期の特例は、給与の支給人員が常時10人未満の会社が、半年分をまとめて納められる制度です。承認を受けている場合は、1月から6月分は7月10日、7月から12月分は翌年1月20日が期限になります(国税庁 No.2505)。毎月納めているのか、年2回なのかで、退職後の予定が変わります。

年に一度の業務を拾う

経理には、毎月の業務のほかに、年に一度だけの業務があります。退職の時期によっては、後任が決まる前にやってきます。主なものを並べました(会社によって異なります)。

時期 業務 期限
1月 法定調書(源泉徴収票など)と合計表の提出 1月31日(国税庁)
1月 給与支払報告書の提出(従業員の方が1月1日に住んでいる区市町村へ) 1月31日(東京都主税局)
1月 償却資産の申告(1月1日時点で持っている資産) 1月31日(東京都主税局。東京23区以外は各市町村に確認)
5〜6月 住民税の新しい税額の反映。区市町村から5月31日までに通知が届き、6月の給与から天引きする ―(東京都主税局)
6〜7月 労働保険の年度更新 6月1日〜7月10日(厚生労働省)
7月 社会保険の算定基礎届 7月10日(日本年金機構)
年末 年末調整。その年の最後の給与を支払うときに行うため、通常は12月 ―(国税庁「年末調整のしかた」)
決算月の2か月後まで 法人税・消費税の申告と納付 事業年度終了の日の翌日から2か月以内(国税庁)

期限が土曜・日曜・祝日にあたるときの扱いや、申告期限の延長の特例(国税庁)を受けているかは、各機関の案内と顧問の税理士の方に確かめてください。申告や社会保険・労働保険の書類を税理士・社労士の方に頼んでいる場合は、社内で行っているのがどこまでかを、業務ごとに確かめておきます。

顧問税理士・銀行・取引先に伝えること

社外への連絡は、4週目から始めます。伝えることと、あわせて確かめることは次のとおりです。

相手 伝えること 確かめること
顧問の税理士の方 退職日、後任の予定 月次の資料を、いつ、何を、どう渡しているか。顧問契約の範囲
顧問の社労士の方 退職日、給与計算や手続きの担当 退職する方ご本人の手続きと、次に来る期限
銀行 担当者の変更 ネットバンキングの利用者と承認者を変える手続き、届出の内容
取引先 請求書の送り先と、問い合わせ先の変更 退職する方の名前やメールアドレスで登録されていないか

顧問の税理士の方に頼めることは、契約の範囲によって変わります。税務代理、税務書類の作成、税務相談は、税理士の業務です(国税庁「税理士の業務」)。一方で、記帳まで頼んでいても、請求書の発行、入金の確認、振込の準備と承認など、会社の中で行う作業は残ります。どこまでが契約の範囲かを、この機会に顧問の税理士の方と確かめておくと、後任の方に渡す範囲もはっきりします。

判断の基準を「判断表」で残す

手順は、録画や手順書で残せます。残りにくいのは、「こういうときはどうしていたか」という判断です。一人経理の方は、社長に確認せず、自分で判断していたこともあります。

判断は、業務一覧とは別に「判断表」にまとめます。

場面 これまでの対応 迷ったときに確認する方
請求書の金額が、発注のときの金額と合わない 発注した部署に確かめてから支払う 発注した部署の責任者
取引先から、支払日を延ばしてほしいと相談された その場で答えず、社長の了承を取る 社長
入金額が請求額より少ない(振込手数料の差し引き) 取引先ごとの取り決めに合わせて処理する 取り決めの一覧
経費精算で、規程にない支出が出てきた 精算の前に社長が判断する 社長
締め日を過ぎてから、追加の請求書が届いた 翌月の支払に回すか、取引先と相談する 部門長

判断の基準は、ご本人に次のように聞くと拾いやすくなります。

  • 社長や上長に確認してから進めていたのは、どんなときか
  • 取引先ごとに、ほかと違う扱いをしているところはあるか
  • 過去にミスが起きたとき、そのあとで何を変えたか
  • ご自身で判断して、まだ誰にも伝えていないことはあるか

判断表は、後任の方が決まったあとも、社長や上長が「この場面はこう決める」と伝えるときの土台になります。

後任が決まらないときの選択肢

退職日までに後任の方が決まらないときの回し方は、主に次のとおりです。

  • 社内の方が仮で担当する
  • 派遣スタッフに来てもらう
  • オンラインアシスタント(時間制の事務代行)に作業を頼む
  • 経理代行など、業務ごとに外注する
  • 引継ぎ代行を使う

比べるときは、料金だけでなく、「前任の方の知識が誰に渡るか」「契約が終わったあと、社内に何が残るか」「後任の方が決まったとき、誰が教えるか」も見てください。同じ観点で並べた表を、派遣・外注とのちがいにまとめています。経理を外に出すときに気をつけたいことは、経理を外注すると社内に何も残らない?で紹介しています。後任が決まらないまま退職日を迎えるときに、先に残しておくものは後任が決まらないまま退職日が来るもご覧ください。

次に同じことが起きないために

今回集めた情報は、次の退職や休業のときにもそのまま使えます。

  • 業務一覧と年間の予定は、会社のファイルとして持ち、担当が変わるたびに更新する
  • 口座と会計ソフトの管理者の権限は、経理の担当者と社長など、2人以上で持つ
  • 判断表は、判断が変わったときに書き足す
  • 請求書の作成や入金の消込など、手順が決まっている作業は、今のツールの中で自動化できないかを考える(属人化した業務は、退職をきっかけに解消する)

引き継ぎの時間がとれないまま、前任の方が退職してしまった場合の立て直し方は、経理の引き継ぎがないまま前任者が辞めた。立て直しの順番で紹介しています。

引継ぎ代行プラスでできること

引継ぎ代行プラスは、退職する方からオンラインで業務を引き継ぎ、マニュアル・動画マニュアル・引継ぎAI(質問に答えるAI)にまとめます(料金は月給の50%、1回)。後任の方が決まるまでの業務は、派遣ではなく業務委託としてリモートで代行し(月給の60〜80%/月、最低2か月)、後任の方が慣れるまで最長1か月お伝えします。ご依頼は窓口の方から受けます。郵便・来客・現金などの現地の作業、支払いの実行、契約や価格の判断はお引き受けせず、税務申告・税務の相談は顧問の税理士の方にお願いしています。経理・総務でお引き受けする業務は、経理・総務の引継ぎ代行にまとめています。相談・簡易診断は無料で(相談する)、モニター企業も先着5社で募集しています(モニターの内容を見る)。

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