給与計算の引き継ぎ
給与計算の担当者が辞めるとき、給与を止めないために先に確認すること
給与は、遅らせることができない支払いです。給与計算を1人の方が担当している会社では、その方の退職が決まった時点で、「次の給与日に、誰が計算して、誰が振込をするのか」を決める必要があります。
この記事では、給与計算の担当の方が退職するときに会社が先に確認しておくことを、締め日と支払日から逆算して整理します。毎月の作業、控除額が変わる月、年に数回の作業、顧問の社労士・税理士との分け方の順に見ていきます。
なお、社会保険・労働保険の手続き書類の作成・提出は顧問の社労士、税務の判断は顧問の税理士の業務です。この記事に出てくる手続きも、自社での進め方は顧問の社労士・税理士にご確認ください。
1. 締め日・支払日と、退職までの日程を1枚に並べる
最初に、給与の締め日と支払日、退職する方の最終出社日と退職日を、同じカレンダーに並べます。退職する方と一緒に回せる給与計算が何回あるかが、これでわかります。
たとえば、月末締め・翌月25日払いの会社で、最終出社日が11月13日、退職日が11月30日の場合は、次のようになります。
| 時期 | 給与の作業 | 担当 |
|---|---|---|
| 11月初め | 10月分の勤怠を締めて集計する | 退職する方と、引き継ぐ方が一緒に |
| 11月13日まで | 11月25日に支払う給与の計算と振込データの準備 | 退職する方と、引き継ぐ方が一緒に |
| 12月初め | 11月分の勤怠を集計する | 引き継ぐ方 |
| 12月10日 | 11月に支払った給与の源泉所得税・住民税を納める | 引き継ぐ方 |
| 12月25日 | 11月分の給与の支払い。年末調整もこの時期 | 引き継ぐ方 |
この例では、退職する方と一緒に回せる給与計算は1回だけです。しかも、引き継いだあとの最初の給与が年末調整と重なります。
一緒に回せる1回は、退職する方が操作するのではなく、引き継ぐ方が操作し、退職する方が横で確かめる形にします。つまずく箇所が、本番の前にわかります。
2. 毎月の給与計算で引き継ぐもの
毎月の作業は、次の表の項目ごとに確認します。
| 作業 | 確認すること |
|---|---|
| 勤怠の集計 | 締め日、勤怠データの出し方(勤怠システム・タイムカード)、残業・欠勤・有給休暇の扱い、締め日のあとに届いた申請の扱い |
| 手当と控除のルール | 通勤手当や資格手当の決め方、社員ごとの例外、立替金などの精算 |
| 給与計算ソフト | ログインと管理者の権限、入社・退職・扶養・住所の変更の入れ方、料率や税額表の更新のしかた |
| 振込データ | 作り方、承認する方、取引銀行の受付期限、振込先が変わったときの手順 |
| 住民税・源泉所得税 | 毎月の控除額の確認、納付の方法と期限、納期の特例を受けているか |
| 社会保険料 | どの月の保険料をどの給与から差し引いているか、納付の方法 |
| 給与明細 | 配り方(紙・メール・システム) |
納付の期限は、次のとおりです。
- 源泉所得税:原則として、給与を支払った月の翌月10日までに納めます。給与の支給人員が常時10人未満で納期の特例を受けている場合は、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日までに納めます(国税庁 No.2505)。
- 住民税(特別徴収):給与から差し引いた月の翌月10日までに納めます。常時10人未満で納期の特例の承認を受けている場合は、6〜11月分を12月10日、12〜5月分を6月10日までに納めます(東京都主税局)。細かな扱いは、従業員がお住まいの市区町村の案内もご確認ください。
- 健康保険・厚生年金保険の保険料:納付対象月の翌月末日が期限です。給与からは、当月に支払う給与から前月分の保険料を差し引くことができます(日本年金機構)。
納期の特例を受けているかどうかで、納める月が大きく変わります。どちらの方法で納めているかを、過去の納付書や領収書の控えで確かめておきます。
書類とデータの置き場所も聞いておく
作業の手順と同じくらい大事なのが、書類とデータの置き場所です。担当の方の机やパソコンの中にしかないものは、共有の場所に移してもらいます。
| もの | 確認すること |
|---|---|
| 住民税の特別徴収税額決定通知書 | 今年度分の保管場所。社員ごとの月の控除額はここに書かれている |
| 社員から出してもらった申告書(扶養の申告など) | 紙か電子か、保管場所 |
| 勤怠の記録、賃金台帳、給与明細の控え | 保管場所と、何年分あるか |
| 納付書・領収書の控え | 源泉所得税・住民税の納付の記録 |
| 賃金規程・手当のルールを書いたもの | 最新版がどれか、規程にない例外があるか |
| 給与計算ソフト・銀行のログイン | 誰の名義のアカウントか、管理者を誰に付け替えるか |
ログインの情報は、パスワードを紙やチャットで受け渡すのではなく、会社の管理者の方がアカウントや権限を付け替える形にします。
3. 控除額や料率が変わる月を、先に書き出す
給与計算の誤りが起きやすいのは、控除額や料率が変わる月です。退職する方が頭の中で覚えていることが多いので、カレンダーに書き出してもらいます。
| 時期 | 変わるもの | 出典 |
|---|---|---|
| 4月 | 雇用保険料率。年度ごとに決まり、4月1日から変わることがある | 厚生労働省 |
| 6月 | 住民税の控除額。5月31日までに市区町村から通知が届き、6月の給与から新しい額で差し引く | 東京都主税局 |
| 9月分から | 社会保険料。算定基礎届で決まった標準報酬月額は9月から翌年8月まで使う。前月分を差し引く会社では、10月に支払う給与から控除額が変わる | 日本年金機構 |
| 1月 | 源泉徴収税額表。令和9年分の税額表は、令和8年分から改正されている | 国税庁 |
令和9年(2027年)分からは、源泉徴収する税に防衛特別所得税が加わります(国税庁 No.2505)。1月の給与計算の前に、給与計算ソフトが新しい税額表に対応しているかを確かめておきます。
4. 年に数回の業務は「時期・期限・前年の控え」で残す
年末調整や算定基礎届は年に1回しかないため、手順を覚えている方がいなくなると、翌年に誰もわからなくなります。次の業務について、時期と期限、社内でやっていた作業、前年の控えの場所を残してもらいます。
| 業務 | 時期・期限 | 社内でやっていた作業(例) |
|---|---|---|
| 年末調整 | 12月に行う(国税庁 No.2665)。源泉徴収票は、すべての従業員に翌年1月31日までに交付する(国税庁 No.7411)。給与支払報告書は、1月31日までに市区町村へ提出する(東京都主税局) | 申告書の配布と回収、記入内容の確認、ソフトへの入力 |
| 算定基礎届 | 4〜6月の報酬をもとに、7月1日から7月10日までに提出(日本年金機構) | 4〜6月の給与データの準備 |
| 労働保険の年度更新 | 6月1日から7月10日までに申告・納付(厚生労働省) | 前年度の賃金総額の集計 |
| 賞与 | 賞与支払届は、支払日から5日以内に提出(日本年金機構) | 控除額の計算、振込データの作成 |
手順書をゼロから書くより、前年の控え(提出した書類、集計に使ったExcel、社労士・税理士とのメール)の場所を一覧にしてもらう方が早く、抜けも少なくなります。画面を操作しながら説明してもらい、その様子を録画しておくと、翌年の担当の方が見返せます(動画とAIで残す方法)。
令和9年(2027年)1月1日以後に提出する源泉徴収票は、市区町村に給与支払報告書を出せば、税務署に提出したものとみなされます(国税庁 No.7411)。前年と手順が変わるところなので、顧問の税理士と進め方を確かめておきます。年末調整の手順や様式は、国税庁の年末調整がよくわかるページにまとまっています。
5. 社労士・税理士に任せることと、社内に残る作業を分ける
給与まわりの作業は、誰の業務かで分けると整理しやすくなります。
| 作業 | 担う方 |
|---|---|
| 勤怠の集計、給与計算、明細の配布、振込データの作成 | 社内(または委託先) |
| 振込の承認・実行 | 社内 |
| 社会保険・労働保険の手続き書類の作成・提出 | 顧問の社労士 |
| 税務の判断・相談 | 顧問の税理士 |
顧問契約でどこまで頼んでいるかは、会社ごとに違います。退職する方に、社労士・税理士と毎月どんなやり取りをしていたか(送っていたデータ、依頼の方法、連絡先)を聞き、社労士・税理士にも担当が変わることを早めに伝えておきます。
担当の方ご自身の退職の手続きも決めておく
給与計算の担当の方が退職すると、その方ご自身の手続きも発生します。退職日のあとに期限が来るものが多いため、誰が行うかを先に決めておきます。
- 健康保険・厚生年金保険の資格喪失届:事実発生から5日以内。資格を失う日は退職日の翌日(日本年金機構)
- 雇用保険の資格喪失届・離職証明書:被保険者でなくなった日の翌日から10日以内(ハローワーク飯田橋)
- 源泉徴収票:年の途中で退職した方には、退職の日以後1か月以内に交付(国税庁 No.7411)
- 住民税の給与所得者異動届出書:退職した月の翌月10日までに提出(東京都主税局)
社会保険・雇用保険の書類の作成・提出は、顧問の社労士に依頼します。
6. 後任が決まるまでの給与計算をどう回すか
後任の方の採用が退職日に間に合わない場合は、次のような回し方があります。
- 社内の方が仮で担当する:定型の作業を担当してもらい、例外の手当などの判断は上長が持ちます
- 顧問の社労士に相談する:給与計算をどこまで頼めるかを確かめます
- 外部に業務を任せる:勤怠の集計や計算を任せ、振込の承認は社内に残します
どの方法でも、最初の数回は前月の結果と並べて確かめると安心です。次の項目を前月と比べ、大きく違うところがあれば、理由がわかってから振込を承認します。
| 比べる項目 | 違いが出たときに考えられること |
|---|---|
| 支給の人数 | 入社・退職・休職の反映もれ |
| 総支給額 | 残業の集計、手当の付け忘れ、日割りの計算 |
| 社会保険料 | 算定基礎届や入退社による変更の反映もれ |
| 源泉所得税・住民税 | 扶養の変更、住民税の新年度額の反映もれ |
| 振込の件数と合計額 | 振込先の変更、振込データの作り直しもれ |
すでに引き継ぎがないまま担当の方が退職している場合
引き継ぎを受けられないまま給与日が近づいている場合は、過去の記録から作業を起こします。前月の給与明細と賃金台帳、給与計算ソフトの計算履歴、振込の控え、納付書の控えを並べると、毎月の作業と金額の流れがおおよそわかります。わからないところは、顧問の社労士・税理士や、給与計算ソフトの提供会社に確かめます。まずは次の給与を前月と同じ形で出すことを優先し、手順書にまとめるのはそのあとにします。経理全体の立て直しは経理の引き継ぎがないまま前任者が辞めたときで紹介しています。
後任が決まらないときの引き継ぎ全般は後任が決まらないまま退職日が来るとき、退職日まで時間がないときは残り2週間でやる順番も参考にしてください。給与計算と経理を同じ方が担当している場合は、一人経理が辞めると決まったらもあわせてご覧ください。
引継ぎ代行プラスでできること
引継ぎ代行プラスは、給与計算を担当していた方からオンラインで業務を引き継ぎ、マニュアル・動画マニュアル・引継ぎAI(質問に答えるAI)にまとめます(料金は月給の50%、1回)。後任の方が決まるまでの業務はリモートで代行し(月給の60〜80%/月、最低2か月)、後任の方が慣れるまで最長1か月引き継ぎます。社会保険・労働保険の手続き書類の作成・提出と税務の判断には入らず、その手前の集計や資料の準備までを行います。支払いの実行は引き受けません。詳しくは給与計算の引継ぎ代行をご覧ください。ご相談と簡易診断は無料です。