引継ぎの進め方
退職代行を使われて引き継ぎがない。会社が業務を止めないための立て直しの順番
ある朝、退職代行から「本日付で退職の意思を伝えます」と連絡が入る。担当の方は出社せず、そのまま退職日を迎える。引き継ぎの時間はありません。
こうしたとき、会社には2つの仕事が同時に来ます。1つは退職の手続きへの対応、もう1つは止まった業務の立て直しです。退職の手続きや法律上の扱いについては、人事労務の解説記事や、顧問の社労士・弁護士の方にご確認ください。この記事では、あまり語られない後者、業務を止めないための立て直しに絞って、順番にまとめます。
1. 最初の1日:期限のある業務を押さえる
最初にやるのは、遅れると困る業務と、その期限を確かめることです。担当の方が何をしていたかを全部知る必要はまだありません。「今週・今月に何が来るか」だけを押さえます。
| 確かめること | 見るところ |
|---|---|
| 取引先への納期・回答の期限 | 受注の一覧、担当の方の送信済みメール、カレンダー |
| 請求・支払いの期日 | 会計ソフト、ネットバンキング、届いている請求書 |
| 給与の締め日・支給日 | 給与計算ソフト、前月の記録 |
| 社内の定例や締め切り | カレンダー、共有フォルダ |
| 取引先との約束ごと | 担当の方の最近のメール・チャット |
期限の近いものから、社内の誰が対応するかを決めます。この段階では、1人に寄せず、業務ごとに持つ方を決めるのが大事です。
退職代行とのやり取りは、社内の窓口を1人に決めておきます。退職の手続きや条件の話で迷うことがあれば、顧問の社労士・弁護士の方にご相談ください。
2. アカウントと連絡先を、会社の側に戻す
担当の方しかログインできないシステムや、担当の方の名前で登録されている連絡先は、業務を止める原因になります。
- 会社の管理者の方が、担当の方のアカウントを停止し、業務を引き継ぐ方のアカウントを用意する
- 担当の方しか持っていない権限(承認者、管理者など)がないかを確かめる
- 取引先に登録されている連絡先が、担当の方個人のメールアドレスになっていないかを確かめる
- ワンタイムパスワードのアプリなどが、担当の方の個人の端末に入っていないかを確かめる
パスワードを担当の方に聞き出すのではなく、会社の管理者の方が付け替える形にします。
3. 会社に残っている記録から、業務を起こす
引き継ぎがなくても、業務の多くは記録に残っています。会社のアカウントと共有フォルダを、業務に必要な範囲で見ていきます。
| 記録 | わかること |
|---|---|
| 送信済みのメール | 誰に、いつ、何を送っていたか。定期的に送っているもの |
| カレンダー | 定例の打ち合わせ、毎月の締め切り、年に一度の予定 |
| 共有フォルダの更新履歴 | どのファイルを、どのくらいの頻度で更新していたか |
| システムの記録(販売管理、会計ソフトなど) | くり返し入力していた処理と、その量 |
| チャット | 社内の誰と、どんなやり取りをしていたか |
| 取引先からのメール | 取引先ごとの依頼の内容と、約束ごと |
会社のアカウントでも、私的なやり取りと思われるものは開かないようにします。何を確認したかは記録に残しておきます。
起こした業務は、次のように一覧にします。
| 業務名 | 頻度・期日 | 使うツール | 関係者 | わかっていること | わからないこと |
|---|---|---|---|---|---|
| 受注の入力 | 毎日 | 販売管理 | 取引先A・B・C | 入力の画面と項目 | 取引先Bだけの特別な扱い |
「わからないこと」の欄を空けておくのがポイントです。次の段階で、取引先や社内の方に確かめる材料になります。
4. 取引先と社内に確かめる
記録だけではわからないことは、取引先や社内の方に確かめます。取引先には、担当が変わったことと、確認のお願いを一緒に伝えると、やり取りがスムーズです。
いつもお世話になっております。〇〇株式会社の△△です。
御社を担当しておりました□□が退職いたしましたため、今後は私が窓口を務めます。引き継ぎの確認のため、次の点を教えていただけますでしょうか。
- 毎月の発注の締め日と、ご発注の方法
- 現在進行中のご依頼と、お約束している納期
ご不便をおかけしますが、どうぞよろしくお願いいたします。
退職の理由や経緯を、取引先に詳しく伝える必要はありません。「担当が変わった」ことと、これからの窓口がわかれば十分です。
5. 業務を仕分け、持ち手を決める
一覧ができたら、業務を3つに分けます。
| 分け方 | 扱い |
|---|---|
| 止められない | 誰が持つかを必ず決める。手順書を先につくる |
| 遅らせられる | 期限を決めて、後任が決まってから |
| やめられる | 使っている人に確かめてから、やめる |
止められない業務を社内の誰かが仮に持つ場合は、期間を日付で決め、判断が要ることは上司が持つようにします。決め方は部下が退職するのに後任がいない。上司が最初の1週間で決めることで紹介しています。後任が見つかるまでの回し方の選択肢と費用は、後任が見つかるまでの業務をどう回すかで比べています。
6. 手順書と判断表にまとめる
起こした業務と、確かめた内容は、手順書と判断表にまとめておきます。
- 手順書:業務ごとの手順。画面の操作は、社内で一度回すときに録画しておくと、後任の方に渡しやすくなります
- 判断表:「こういうときはこうする」という場面ごとの対応。取引先に確かめた約束ごとも、ここに書きます
経理の業務の場合の、もう少しくわしい立て直しの順番は、経理の引き継ぎがないまま前任者が辞めた。立て直しの順番にまとめています。
7. 次に同じことが起きないために
引き継ぎがないまま担当の方が辞めると、会社には何も残りません。次に同じことが起きても困らないように、ふだんから次のことをしておくと安心です。
- 業務の一覧と年間の予定を、会社のファイルとして持っておく
- 手順書と判断表を、担当の方にしかわからない状態にしない
- システムの管理者の権限は、2人以上で持つ
- 取引先に登録する連絡先は、個人ではなく共有のアドレスにする
また、退職代行が使われる背景には、会社に直接言い出しにくい事情があることもあります。退職を早めに相談できる関係があれば、辞める方がいるうちに引き継ぎができます。退職のたびに引き継ぎが2回起きてしまう問題については、二重引継ぎとはで紹介しています。
引継ぎ代行プラスでできること
引継ぎ代行プラスは、ふだんは辞める方から直接業務を引き継ぐサービスですが、引き継ぎがないまま担当の方が辞めてしまった場合は、会社に残っている記録から業務を起こし直す「立て直し」をお引き受けしています。期限の業務の洗い出しから、手順書・判断表・引継ぎAIへのまとめ、後任の方が決まるまでの業務代行(営業事務・受発注・総務など)、後任の方への引継ぎまでを行います。退職の手続きや、辞めた方・退職代行とのやり取りには関わりません。経理・給与計算は、業務の代行はせず、手順書と判断表を起こすところまでを行います。くわしくは引き継ぎなしの立て直しをご覧ください。相談と簡易診断は無料です。